障害児支える地域の絆 震災、原発事故…… 避難生活で大切さ浮き彫り
記事・共同通信
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東日本大震災と東京電力福島第1原発事故では、発達障害のある子どもも数多く被災し、避難生活を強いられた。学校や地域に見守られ、新たな一歩を踏み出す家族がある一方、避難先で孤立を深める母親もいる。震災を通じ、地域の絆の大切さが浮き彫りになった。
●「この学校で良かった」 周囲に見守られて 宮城の特別支援学級
大きな揺れに見舞われたのは、自宅近くの小学校にいた時だ。宮城県石巻市の浅野雅子さん(42)は、知的障害を伴う自閉症で特別支援学級に通っていた長男敬志君(13)を迎えに行っていた。
薬を取りに一度帰宅。非常時でもいつも通りきちんと靴を脱ぐ息子に大声を上げてしまう。避難所の中学校に急いだ。
敬志君は環境の変化が苦手。3日過ごした教室では片隅で身をすぼめ、ずっと横になっていた。登米市にある夫の実家に移っても安心できる布団にもぐったままだった。
食料不足の中、親戚は気を使ってくれたが、偏食気味の敬志君はあまり食べない。「わがまま言えないんだから」。いら立ち、不安が募る。言葉を理解しづらい敬志君の腕を思わずつねったことも。「誰も悪くないのに。つねっても何も変わらないのに」と涙が出た。
数日後、浅野さんは自分だけ自宅に戻り、片付けを始めた。好きなおもちゃやスケッチブックに囲まれ、笑う息子の姿を見たい一心だった。
安否確認に訪れた担任教諭は「教室には敬ちゃんの好きなおもちゃがあるよ」と学校に来るよう勧めた。元担任は「食べられなくて困るだろう」と、好きなお菓子を残していた。
「理解してくれる先生が目の前にいる。私も救われた」
敬志君も自宅に戻り、卒業式を迎えた。頑張る一家を心配し、見守る周囲の人は増えていった。
「この地域で育てて良かった。この学校で良かった」。卒業証書を受け取る敬志君を見て、浅野さんは思った。
重度の知的障害がある自閉症の長男(21)がいる仙台市の高橋みかわさん(48)にも支えられた。「普段から子どもの存在を知ってもらうのが大事。日常の在り方が非常時の支えになる」と話す高橋さんは「『つらかった』で終わらせず次に伝えたい」と、自分や浅野さんら親たちの体験を「大震災 自閉っこ家族のサバイバル」(ぶどう社刊)にまとめた。
敬志君が今春から通う県立石巻支援学校は児童生徒4人が犠牲になった。住民は学校に次々避難。介護が要る高齢者約20人を含む80人以上が避難していた時もあった。
教職員は近所の人の食料支援や他校の協力を得て避難所も運営しつつ、5月12日の始業式と入学式にこぎ着けた。震災後、眠れなかったり自分の頭をたたいたりする子が増えた。体重が10キロ減った女子もいたが、学校が始まると元気になった。
「学校がいかに子どもの支えになっているか、あらためて重みを感じた」と話す桜田博校長(57)は、地域の理解の重要性も再認識させられた。「震災で手を差し伸べてくれた地域の人に元気な子どもの姿を見せるのが感謝のメッセージだ」
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