1990年に世に出した本が毎年のように増刷されて、2008年暮れに、29刷になりました。この本に描いた社会が、日本でまだ実現していないからかもしれません。
読者の方が、この本から何を感じてくださったのか。
お寄せいただいた感想の一部を抜粋してお届けします。

大熊由紀子

◆本を読んでの姉との対話◆

福祉関係の本を最初から最後まで興味をもち読んだのは初めてでした。いつも眠気が襲ってきました。しかし、この本は、いっきに読み終えてしまいました。そして、感動にひたっていました。
姉が本のタイトルを見て、「寝たきりの人がいない国なんてあるの?」って聞いてきたので、私は自慢げに、「北欧はすごいんだから!ヘルパーさんは充実してるし、みんな起きてご飯食べて、外に出て、お洒落して、生き生きしてるねんから」と言いました。
姉が、「でも認知症の人やろ?怖くないの?」と。だから私は、「縛るほうがもっと痴呆を悪化させちゃうねんて!縛ってしまったら憲法第25条に反しちゃうんだから。」と、理屈っぽく答えてしまいました。
それにしても、寝たきり老人を探すためにわざとあちこちのドアを開けてみたり、アルコール中毒のフリをしたパートナーを精神病院へ連れていったりという、思い切った行動は、本を読んでて笑ってしまいました。でも、そのくらい思い切った行動をしなければ福祉の世界に入っていけないと思い、これから頑張ろうと強く思いました。
北欧の素晴らしさ、頑張っている日本の方々のことを伝えてくださいましてありがとうございました。
(梶浦江梨さんから)

◆読む前は「本当かな〜?」と◆
大胆な題名で、読む前は「本当かな〜?」という気持ちでした。
私がそれまで感じていた福祉のイメージが正直に言うと、“暗く、隠すもの”だったので、北欧の福祉の実態に触れて、大変な衝撃を受けました。
どうしてだろう・・?と思いましたが、その答えは本を読み進めていく中で、すぐに解決しました。
決定的に違う点は、介護する側が高齢者に対して一人の人間としての誇りを尊重する心を持ち、高齢者が人生の主人公であり続ける環境が備わっていることでした。
著書の中の写真はどれをみても皆、表情豊かで、“楽しい”というように見受けられました! それに対し日本は、介護の質と量が充実しておらず、悪循環が発生しているように思います。しかし、60年代までは北欧も今の日本と同じであったと本の中にありました。
国と個人、全ての人が知恵を出し合い、真の豊かさを求めて日本の福祉がよりよくなるようにしたいです・・
(三宅 喬子さんから)
◆衝撃的だった最終章◆
最後の章の「動物の世界にはないもの」は、すごく衝撃的でした。
ボスザルが子ザルを殺すというのにも驚いたけれど、母ザルが子ザルを看病をしないというのには本当に驚きました。
人間は遺伝子の仕組みに逆らえる。だからハンディをもった人、困っている人を助けようとする。この人間ならではの気持ちを大事にしたいなと思いました。
(井上瑞穂さんから)
◆教科書に「人間を知ること」◆
日本よりも小さな国が日本よりも充実した福祉を実現させているということに驚きました。
しかしそれもそのはず、ホームヘルパーの基礎教育指導の教科書の項目を見てみると、人間を知ること・お年寄りを知ること・家族を知ること・・などがあって、ただ身の回りの世話をするだけでなく人間やその家族のことについて理解しようとするところがとても素晴らしいと感じました。
この本のタイトルにも関係ある「寝たきり」という言葉。なぜ今まで気づかなかったのか!考えてみれば当たり前のことだと気づきました。体を起こして体を動かすことや、いろんな場所に出向いたり、いろんな人と会話したり、いろんなものを見たりして、いい意味での刺激があれば、ぼけてしまうこともないでしょう。
寝かせきりにするから「寝たきり」にならざるをえない。発見はシンプルだけれどもとても重要なことだと改めて認識しました。
(金城宏樹さんから)
◆想像とまったく違っていました◆ 
私が思っていた訪問看護師は、お年寄りの家を訪ね、体調や薬などのチェックをする。ただそれだけだと思っていました。でも、デンマークの看護師さんはそれだけではなく、自宅で暮らせるように環境を整えるために、専門家との連絡をとったり、その方が自立できるようになるためには何が必要か、を訪問するたびに探していました。また、訪問先は高齢者だけでなく、色々な病気をもつ人が対象です。
「家庭医」も、想像した「往診するお医者さん」ではありませんでした。すごいと思ったことは、「家庭医」はりっぱな専門医であることです。病院の医者になるよりも、家庭医として認定されることの方が難しいなんて、それほど家庭医に力を入れているということが分かります。患者さんも様々な病気を持つ人が対象だから、経験がすごく大切だと思いました。
高齢者や障害者の方が笑顔で毎日を過ごせるのは、補助器具のおかげでした。高齢者はベットから離れ、起き上がれるようになり、障害者は町で動き回れるようになりました。利用者の体に合うように器具を調節し、またリサイクルして何度も使っていることにも素晴らしいと思いました。無料で貸し出ししていることには驚きました。
「北欧の国に『寝たきり老人』がいない最大の秘密はホームヘルパーの存在だった」と本に書いてあったとおり、ホームヘルパーの活躍にはびっくりしました。食事の準備や掃除をするということがホームヘルパーというイメージでした。でもデンマークのヘルパーさんは、その前にまずその方をベットから起こすことから始まっていました。どんな人でも朝、布団から起き上がってから一日が始まります。もう1つ気づいたことは、介護をしているとついつい過剰なお世話をしてしまっていることです。お年寄りの方をゆっくり見守ろうと思っていても、我慢できずに手を出してしまいます。お年寄りの潜在能力を損なってしまう原因だったということを知りました。親切でしていると思いがちだけれど、実は私たちの勝手な考えだということに気づき、反省しました。
(岡 奈津子さんから)
◆忘れられない、バンク=ミケルセンさんの言葉◆ 
最初の衝撃は、北欧の老人の表情でした!
身体が自由に動かなかったり、支障をきたしているのに、とてもいきいきとしているのです。どこからこの表情は出てきているのか、とても気になりました。
今までに自分の祖母も含め、3箇所の老人施設に行ったことがありました。でもこんな表情をしている方を見たことがありません。もちろん、北欧のようにおしゃれをしている人なんて見たことがありません。この本を読むまで、介護している家族が耐えられなくなって、施設に入れることはやむを得ないことで、老人にとっても家族にとっても一番いい方法なんじゃないかと思っていました。でもこの本を読んで、「そんなこと思ったらあかん!」って思い直しました。
 次に印象に残ったのは、北欧の医療や福祉に対する考えとか取り組み方が、積極的ということです。住民1万人に400人のヘルパーさんが存在し、日本では寝たきりになっているだろうと思われる人が、車椅子にのり、おしゃれをして、外出している。時には買い物に行く。このヘルパーさんの存在が「寝たきり老人」をつくらないだけでなく、充実した日々をつくりだせるのだと思いました。訪問看護婦さんや家庭医さんなど自宅で医療を受けられる制度がしっかり整っているということも、充実した日々をすごせる大きなものだと思いました。そうでないと75歳の半身不随の人や神経難病の人、96歳の人が一人暮らしなんてできないと思います。「アラジンの魔法のランプ」の大男のようなひとがいないと...
 「どんなにハンディキャップを負っていても『ふつう』に暮らせるように、環境のほうを変えていくこと。」「障害をもった人たちや高齢者に税金を使うことに抵抗をもつ国民は、まず、いません。」第2章で語られているバンク=ミケルセンさんの思想と言葉は、忘れられないものになりそうです。
寝たきり老人を「寝かせたきり」にしてきたのは私たちのその思考なのかもしれないと思いました。
(西津 亜杏さんから)
◆「法律破りをどうぞ」という制度に目からウロコが◆
福祉社会を作るのに必要な教科書のような本でした。
たとえば、「法律破りをどうぞという制度」という章は、目からウロコでした。日本では、変なところで法律を破る社会ですが、肝心な、生きていくのに障害となるような法律の壁だって破れないところがあります。
そして、とても驚いたのは、障害を持った方が、国会議員になったり市議員にもなれるということです。障害を持った方が、国会議員になれるなんて当たり前であるべきで、驚いている方がおかしいと思うのですが、日本では、見たことがありません。
身体障害のある方が建設計画に口を挟めたり、OKを出さないと補助器具がリストに載らない形になっていることはすばらしいことだと思いました。
(橘 美穂さんから)
◆この本が出て、日本にも介護保険法ができたけれど◆
 この本を最初に読んだのは高校生の時でした。
当時は、北欧はすごい!日本も北欧のようだったらいいのに。と思うだけでした。今回再び読んでみて、日本もほんの少しだけれど福祉が進んだと思いました。介護保険法で、拘束は例外を除き禁止されたし、大部屋ではなく個室化や少人数制が進みつつあります。一日中寝たきりにならないように少しでも起きるようにする施設もあります。脱施設化の動きも徐々に行われています。
 その一方で老老介護が増え、独居老人が自宅で暮らせず嫌々施設に入るという状況も増えています。自宅にいても十分な援助がなされず、生き生きと生活できないという状況もあります。それは介護保険が人々の生活に沿って出来ていないから起こっていることだと思います。
本の中に、SOSシステムについて、北欧ではSOSの百回のうち98回は「トイレに行きたい」「今夜はテレビが面白いから、寝かせに来るのは、この番組が終わってからにしてください」「なんだか寂しくて」というたわいのないことだけれど大切なことで、ヘルパーもそのことを十分に理解していて、快く受け入れていました。
けれど日本の介護保険法は、ヘルパーは法で定められたことしかしてはいけないと言っています。実際に自宅で生活している高齢者は電球の取替えが出来なくて困っていても、簡単にヘルパーにやってもらえないというのが現状だそうです。公共の場でさえ十分なバリアフリーがなかったり、交通手段がなかったりしています。まだまだ日本の福祉には問題が山積みだと感じました。
 デンマークの家庭医や補助器具センターやスウェーデンの「BS42a」条項など多方面から支援していくことで、もれが無く、利用者も不安を感じなくてよいように思いました。デンマークで家庭医を専門医として認定し、高い評価を得ていることに関心を持ちました。市民の身近な医師が高い評価を得ながらも、「医師を選ぶのは市民」というのは医師を高慢なものにしないし、信頼関係も深くなるし、いざとなったら医師が駆けつけてくれるし、とても安心できると思いました。
 (堀内ひとみさんから)
◆「職員の役割は世話を焼くことではなく」◆
日本の福祉を変えたいという強い思いが、この本からひしひしと伝わってきました。
私も日本の福祉には不満だらけです。一番許せないのは福祉に関する法律が、現場のことを何もわかってないじゃないかと言いたくなるようなものばかりだということです。
北欧では何をするかは本人が決めるという「自己決定」の権利が守られているところもすばらしいと思いました。人間は誰しも意思をもっています。そこが、他の動物と違うところであり、人間であることの最大の価値だと私は思っています。
スウェーデンの、ジョイベニグ所長のことばの中に「職員の役割は世話をやくことではない。一人一人について何が出来るかを考え、可能性を見つけ広げていく。仲間と一緒に活動していく中で、社会性が発展していくように支援する。これが職員の役割だ。」とありました。
私は感動してしまいました。やってあげるのではなく見守り手伝う、これが本当の福祉なのだと思い知らされました。
(山田裕子さんから)