朝日新聞 2007年12月31日より

中高生、「心の病」学ぶ 10代〜20代で発症も

 統合失調症やうつ病といった心の病気を学ぶ、中学・高校生向けの授業プログラムが年明けにまとまる。統合失調症は10〜20代で発症するケースが最も多いとされるが、授業で取り上げる日本の学校は少なく、精神科医らは「画期的な試み」と注目している。千葉県野田市にある県立関宿高校の2年生を対象にしたパイロット授業をのぞいた。
 教室前のスクリーンに映し出されたのは鳥取県に住む古川奈都子さん(36)。夫や子どもと楽しげに食卓を囲んでいる。かつて精神分裂病と呼ばれた統合失調症を高2で発症し、今も投薬を受けるなど、病気とつき合いながら暮らしていることを宮薗育子教諭(41)が紹介した。
 約30人の生徒たちには古川さんの著書「心を病むってどういうこと?」(ぶどう社)から抜粋した文章がプリントで配られていた。
 「中学のころ、周りの意見ばかり気にしていた」「高校生のころ『ブスだよね』という幻聴があった」と、交代で音読した。
 パイロット授業は11月末の2日間、国語の授業で行われた。初日は古川さんを通して、幻聴や妄想といった典型的な症状を学んだ。100人に1人が一生涯のうちにかかるといい、宮薗教諭は「あなたたちの年代で発症することが多いんですよ」「ストレスが要因になる場合もある」「正しい治療によって回復できる」と語りかけた。
 2日目は、古川さんとは別の患者たちが働く施設をビデオで紹介し、患者のメッセージも届けられた。
 授業後、佐藤佑樹さん(16)は「『周りの意見が気になる』ことは僕もある。最初は、統合失調症の人は自分とは違う人だと思っていたが、そうじゃないということに気づいた。自分がなる可能性もある、と感じた」と話した。
 この「中高生向けこころの病気を学ぶ授業プログラム」は、製薬会社の日本イーライリリー(本社・神戸市)と、企業などと連携し教材開発を手がけるNPO法人「企業教育研究会」(千葉市中央区)が、精神科医や患者団体の助言を受けて開発してきた。
 パワーポイントや動画が入ったDVDのほか、教師用マニュアルやパイロット授業の様子をまとめたビデオなどの教材を来年1月中に完成させる計画だ。全国の教育委員会などに活用を呼びかけるほか、企業教育研究会のメンバーが学校に出向き、授業の進め方などを話し合う予定もある。
 精神疾患の啓発に取り組む水野雅文・東邦大医学部教授(精神科医)は「発症しやすい中学や高校時代に教えることは、早期発見、早期治療という観点からも有用だ」と評価する。
 問い合わせは日本イーライリリー(電話0120・245・970)へ。